2015.11.12(木)

李順の謀

【臨時妃】【黎翔×夕鈴】


「失礼致します。李順様、…よろしいでしょうか。」

扉の向こうで若い女官の声がする。

黎翔は手にしていた書簡から眼を離し、扉の方に顔を向けた。
この部屋の主である李順は、先ほど黎翔に請われ必要な資料を取りに出た所だ。
直ぐに戻るだろう…と声を掛けようかと思ったが、女官が李順を訪ねてくるというのがふと気になって、自らそっと扉を開いた。

伏目がちに静々と入って来た女官は、顔を上げて眼の前に黎翔が居たことに驚く。
「こ、これは陛下…。」
女官として直ぐに礼をとるが、少したじろいだその様子に違和感を感じた。

ーー何か、自分が居ては不味い事でもあるのか?

「李順に用か。ならば私が伝えておこう、どんな用事だ?」
少し間を置いて女官が答える。

「ーいいえ、陛下。
急ぎの用では御座いませぬ故、また後で参ります。」

それを聞いた黎翔は、礼をとったまま後ろへ下がろうとした女官の腕を、引き戻す様に掴み上げた。

「へ…陛下!?」

「まぁ待て。」

冷たい狼陛下の声。

びくりと身体を震わせたのが、掴んでいる腕から伝わる。
一瞬だが、女官の眼が宙を彷徨った。
黎翔の中で疑問が確信へと変わっていく。
細腕を掴む掌の力を強める。

ーー私に隠し事とは…。

「何だ、私に言えぬ用事か?」

「いえ…その…、必ず…李順様に…と…言われて…。」
徐々に女官の顔が歪んで行き、今にも泣き出さんばかりだ。

それでも。

追い討ちの様に、冷酷な狼が牙を剥いて見せる。

「…言え。」



女官は、

耐え切れず、震える声で…。



「お…お妃様…が、……」

│posted at 14:32:26│ コメント 0件
2015.11.12(木)

李順の謀 2

李順は急いでいた。

ーー自分が部屋を空ける予定はなかったのに…。

予定ではまだ陛下は、宰相殿と会談中の筈だった。

まさかあんなに早く会談が終わるなんて。
その報告に、陛下自ら普段訪れもしない自室に来るなんて。
更に、急ぎの用事を頼まれるなんて。
陛下が『その間この部屋で待つ』と自室に居座るなんてっ!←(移動メンドくさいとか何とか)

想定外の事が続いている。

黎翔は謀の匂いに対してまで狼並みの嗅覚を持っているのか、隠し事が本当に難しい。

ーー自分が戻るまで部屋に誰も来ない様にと従者に言付けを頼んだが…。
入れ違いになってもいけない。

自室前にようやく辿り着いたその時。

バンッ!

勢い良く扉が開き、中から黎翔が飛び出して来た。

「陛下?!」
ゆっくりと振り向いた黎翔は、李順の姿を鋭く睨めつける。
まるで飢えた若い狼の様だ。

「李順…、お前…。」

ふと部屋の中を見遣ると、涙を浮かべ怯えた表情の女官がへなへなと床に崩れ落ちるのが見えた。
黎翔は一体どんな恐ろしい姿を見せたのだろうか。

ーー全て…知られてしまった様ですね。

李順は動揺を隠し、真っ直ぐに黎翔を見つめた。
「陛下、どちらへ行かれるのですか?
まだ…政務室の方に仕事が残っているでしょう?」

その言葉に、黎翔の眉が僅かに動く。
少しずつ辺りを冷気が漂う。

「…急ぎの仕事はもう終わったはずだが。」
「陛下!」
「何故隠していたのか、まぁ理解は出来るが…。」

紅い眼が燃えるように揺らぐ。

「もう、我慢の限界だッ!」

怒気にも似た恐ろしい程の威圧感を醸し出しながら狼陛下が走り出す。


「陛下っ!
お妃様のお考えでも御座います故、どうかお戻りをっ!!」

駆け出した黎翔を引き留めようと声を張り上げたが、あっという間に姿が見えなくなった。






「……。」



ーーまだ政務が残っていたのに…。
こうなるからこそ黙っていたのに。



ここの所、黎翔は激務続きだった。
1週間程夕鈴に会えてもいない。

そんな黎翔の為に用意したご褒美が、
『夕鈴の手作りの菓子でゆっくり午後の休憩』

その準備が出来たという報せを仕事が終わるまで隠そうとしたのだが…。

たったそれだけの事であの形相。


ーーやはり、どうかしてしまったんでしょうかね。


無意識に胃の辺りに手を当てながら、李順は深い深い溜息をついた。
│posted at 14:34:29│ コメント 0件
2016.01.15(金)

李順の謀 (オマケ)

「大丈夫でしたか?」

力なく座り込んだままの女官に声を掛けた。

ーー彼女も伝言を伝えに来ただけで、とんだ災難に遭ってしまったものだ。

「は、はい…。」
遠くを見つめていた女官の眼が、ゆっくりと李順に向く。

「立てますか?」

普段陛下の側近として厳しい顔で仕事を裁く李順が、優しく声を掛けながら手を差し伸べている。

その様子に女官はかなり驚いたが、そのお陰か先程の恐怖から解放され、何とか動けそうだ。
少し迷った後、折角なので李順の手を借りる事にした。
「ありがとうございますーーあ、あら?」
李順の手を取り立ち上がろうとした…が、膝に力が入らずまた床に座り込んでしまう。
「膝が…力が入らなくて…。」

「…あの狼陛下ですからね。
あの方に詰め寄られれば、まあそうなるでしょうね。」
李順は何度目かの深い溜息をついた。
「ー…直ぐに立退きますので。」
女官としても、ずっと男の部屋にいる訳にいかないのだろう。
彼女の表情に焦りが見え始める。

「この後の仕事は?」
「え…?あ、ええと、陛下がお妃さまの元へ行かれましたので、…私は1度王宮の方の詰所に戻り女官長様に報告をする予定でございました。
その後は女官長様の指示に従う事になっております。」

「そうですか。では詰所に向えば良いのですね?」
「え?」

李順は女官の側に膝をつくと、優雅な所作で彼女を抱え上げた。

「お嫌なら近くで降ろして差し上げますので、我慢せず言って下さい。」

至近距離に李順の端正な顔がある。
女官は小さく頷く事しか出来なかった。



その後、女官を抱えたまま王宮女官の詰所に連れて行った李順は、普段あまり見せない優しさが大受けし女官達の間で人気急上昇。

縁談がめっちゃ増えた。

│posted at 19:53:40│ コメント 0件
プロフィール

えぐち

Author:えぐち
江口(。-_-。)と申します。
場合によって、漢字のみだったりひらがなだったり。
どうぞよろしくお願い致します。

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