2015.11.05(木)

小犬陛下と饅頭屋 1ー1


【パラレル】【もしも夕鈴が臨時妃の話を断ったら】【オリキャラ注意】



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《想い》




夕鈴

その名を呼ぶだけで
こんなにも満たされた気持ちになる




時々 思うことがある

『偶々、臨時妃に選ばれたのが夕鈴だった』

それは本当に偶然だったのだろうか



どんな表情にも 心が揺れる
側に居るだけで世界が華やいで見える
どんな時も 夕鈴の事を想ってしまう


何故か…
どこにいても 何をしていても
君を見つけられる自信がある



ねぇ 夕鈴


もし臨時花嫁として
出逢う事が無かったとしても

きっと僕は君を見つけて

捕まえて来てしまうんじゃないかな



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《運命は変わらない》


ここは白陽国。狼陛下の治める国。

数年前までは、度々内乱が起こる緊迫した国だった。
色に溺れ、民に背を向けた王によって国政は乱れ、遂には狡猾な臣下達に実権を握られた。平然と国庫を貪る貴族達に、民の不満は積もる。それはやがて内乱へと繋がり、王都にも不穏な空気が溢れ出していた。

そして…、その只中に即位したのが現国王珀黎翔だった。

若く端麗なその容姿に反して内面は苛烈であり、王座に就くなり瞬く間に反乱を抑え中央政府を掌握し、悪しき王朝の腐敗を次々に払拭していった。

内乱鎮圧、残党討伐には自ら戦場に赴き軍を指揮し、鬼神の如き強さで剣を振るう。
逆らう者には一切容赦のないその戦い振り、臣下をも力でねじ伏せるその猛々しい王を、人々は恐れこう呼んだ。


『冷酷非情の狼陛下』と。



│posted at 12:30:08│ コメント 2件
2015.11.06(金)

小犬陛下と饅頭屋 1ー2

ある晴れた日…。

【白陽国 王都乾隴 下町】

その日早朝から下町を彼方此方と歩いていた男は、軽く小腹を満たそうと小さな商店が並ぶ区画に向かった。

何軒かの店を見ながらしばらく歩いていると辺りを漂う美味しそうな香りに引き寄せられた。その香りを辿って行くと、とある小さな饅頭屋に行き着く。男は顔を上げて、店を検分するかの様にまじまじと見渡した。

店構えは古く小ぢんまりとしているが、手入れはしっかり行き届いていて気持ちが良い。
饅頭屋の奥を覗くと、小さな卓や椅子があり、更に奥に背の低い屏風が見えた。その屏風の向こうに、頭上で髪を2つに分けて結っている女性らしき影が動いている。影は忙しなくぴょこぴょこと動き、まるで兎の耳の様。

男は店の前でしばらく佇んでいたが、何時までも自分に気が付いて貰えそうにないので、仕方なく影に向かって声を掛けた。
「こんにちは。」
「あ!お客さん?ちょっと待ってて下さいね。」
ゴトゴトと何かを仕舞う様な音がして、栗色の眼をした若い娘が表まで出てきた。

「いらっしゃいませ!お待たせしてごめんなさいっ!」
人懐っこい笑顔を見せた後、娘は言いにくそうに言葉を続けた。
「せっかく来て頂いて申し訳ないんですが、もう今日の分は完売してしまいまして…。」
「えっ、もう売り切れてるの?」
「お陰様で!まあ、私一人で作ってるので、作れる量もそんなにないんですけど。
よかったら…明日の予約でしたらお受け出来ますが、如何ですか?」
「そうなんだ。でも残念ながら予約は出来ないや。…滅多にこの辺には来られなくてね。」
「あら〜、そうなんですか…。」
お客は見るからに落ち込んでいる。
長身の優しそうな青年だが、今の姿はご飯をお預けされている小犬の様。何だか垂れた耳まで見えそうだ。
「もう完売してる位美味しいお饅頭か。
そうだな、またいつかきっと食べに来るよ。」
片手でお腹をさすりつつ力ない笑顔で店を後にしようとした男を思わず引き留めた。

「あ、あの、ちょっと待って下さい!」
「え?」
「その…お客さん、見た目を気にされる方ですか?」
「うん?」

娘が急に見た目の事を聞いて来たので、男は思わず自分の格好を確かめた。
外套も服も普通の筈だ。色合わせもおかしくない…と思う。…と言う事は、眼鏡が太めの黒縁なのがおかしいのだろうか。

「そこまで気にする方ではないけど、何処か変だった?」
きょろきょろと自分の姿を確認する男を見て、ふふっと娘が笑い出した。
「いえ、違うんです!言葉足らずでごめんなさいね。お客さんの見た目ではなくて、お饅頭の見た目です。滅多に来られないんでしたら、せっかくなんで味見だけでもして帰って下さいな!」
「え?完売したんだよね?」
「…内緒にして下さいね?」
娘はそう言い店の奥に引っ込むと、ニコニコしながら竹で編んだ籠を持って来た。中には美味しそうな饅頭がいくつか入っていたが、どれも少し形が歪んで見える。
「時々、同じ様に作っていてもこうやって見た目が余り良くない物が出来るんです。味は一緒なんですけど嫌がる人もいるし、何よりここの女将さんが品質に厳しい人で売り物にはならなくて。」
娘は少し寂しげに饅頭を見た。
あと少し形が良かったら、餡がはみ出さなかったら、商品になって誰かが食べてくれたのに。何とも勿体ない。
「それで見た目を聞いてきたんだね。」
男が納得したように微笑みながら頷いた。
「はい、ではおひとつどうぞ!」
茶色の包紙で饅頭を丁寧に包むと、娘は男にそれを差し出した。

「…いいの?売り物じゃないって言っても…。」
「どうせ私が持って帰るモノですから。お客さんの味見として食べて貰えるならお饅頭も本望でしょう?」
「本望…なんだ。」
ククッとくぐもった笑声が漏れ聞こえてきた。娘の言葉にウケた様だ。
「その代わり、是非また買いに来てくださいねっ。よろしくお願いします!」
途中から営業スマイルになって元気に勧誘する娘が、何だか可愛らしく見えた。
「うん、じゃあ必ず来ることにするよ。ありがとう。」
男は客思いの元気な娘に御礼を言って店を出た。

歩きながら、貰った饅頭にかぶりつく。思ったよりも口溶けの良い生地に、上品な餡の甘さ。
「…美味しい。」
後味も優しく、これなら何個でも食べられそうだ。まだ昼にもなっていないこの時間に売り切れてしまうのも頷ける。
『また買いに来てくださいねっ。』
客に対し親身になってくれた娘の姿が思い浮かぶ。
くるくると表情が変わって面白い娘だった。

いつ会いに行こうかな…。


男は其れまでとはまるで別人のように、紅い眼を細めてニヤリと笑った。

│posted at 21:46:23│ コメント 0件
2015.11.11(水)

小犬陛下と饅頭屋 1ー3


《選択》

紅い眼の男が饅頭屋を訪れる2週間程前の事。

【下町 章安区】

大通りの八百屋の前で大根を嬉しそうに受け取る少女が見えた。値切りに値切ったのだろう、店のおじさんは酷く悔しそうな表情を浮かべていた。
おじさんに何やら声をかけて店を出た時、彼女の明るい金茶色の髪が揺れた。

まるで子兎の耳の様に、上から中程までの髪の毛を頭上で小さく二つに結っている。後の髪はそのまま垂らしており、彼女が動く度に陽射しを受けてキラキラと輝いていていた。
何処に居ても良く目立つ髪の色と結い方だ。
隻眼の男は先程から探していたその少女に声を掛けた。

「おい、夕鈴。」
「げっ!几鍔!」
「何だよその『げっ』ってのは!」

夕鈴は、かなり嫌そうに顔を顰めている。
この幼馴染の少女は何時の頃からか几鍔の顔を見てはこの顔をする様になった。それが何だか気に入らない。

「ったく、なんて面してんだお前は。そんなだから嫁の貰い手がねぇんだよ。」
「なっ!余計なお世話よーっ!」

夕鈴は凄かましい表情で怒り始めた。これ以上怒らせると話も出来ず罵ってくるだけになるので、早めに用件を伝える事にした。

「フン、さっきより変な面になってんぞ。
それより、お前新しいバイト探してたよな?ちょうど良さそうなのが有るんだが、やらねえか?」
「さっきよりって!…ん、バイト?良いのがあったの!?」
「ああ、区は違うが通えない事ない場所だ。給料は出来高制だが、信用の置ける人だから大丈夫だ。」
「ホント!?」

最近、夕鈴はバイトを探していた。
父親の稼ぎは生活費に消えてしまうだけでろくに貯えも出来ない。それ何処か、夕鈴が必死でやりくりしているにも関わらず、父親は借金までしてギャンブルにつぎ込んだりする。
可愛い可愛い弟は、それを見兼ねて自分も学問所を休んで働こうかと悩み始めたらしい。
でも。
弟の夢だけは何としても叶えてやりたい。
その為の勉強は満足の行くようにさせてやりたい。
それには、今のバイトだけでは不十分だ。
良い条件のバイトに変えるか、短時間バイトを増やすしかないのだ。

「ああ。それに、上手くやれば早く終われる。夕方から明玉んとこのバイト入れりゃあ掛け持ちも出来るぞ。」
「掛け持ちも…!」
夕鈴は俯いて考え始めたかと思うと、直ぐに勢い良く顔を上げた。
「やるわッ!!そのバイトッ!!!」
幼馴染の勢いの良さに思わず笑みが零れる。

「おい、まだバイトの内容も話してねえんだが…。聞かないで決めちまうのか?」
「あ、しまった!」
夕鈴は恥ずかしさで耳まで赤くなった。
この少女はしっかりしている様でいて、実はそそっかしくて何時も目が離せない。新しいバイト先でやっていけるかしばらく覗きに行った方が良さそうだ。


「で?何のバイトなの?」


「ん、饅頭屋だ。」
│posted at 00:39:00│ コメント 0件
2015.11.11(水)

小犬陛下と饅頭屋 1ー4

数日後

【王宮・執務室控えの間】

「…返答は否だった…?」

整った顔立ちの狼陛下の側近、李順は報告書を受け取りながら眉をひそめた。

「はい。第一候補だった汀 夕鈴ですが、何でも王宮で住み込みをする余裕がないとかで…。」
「そうですか。真面目で堅実と評判の様でしたので残念ですね。」
そう言いながら報告書に目を通して行く。

「では、この第二候補の趙 麗華で話しを進めて行くとしましょう。」
「畏まりました。」
頭を垂れたままの内侍が下がって行った。
其れを見届け、もう一度報告書を眺めた。

「…破格の給料なのに、この娘も勿体無い事をしましたね。」

李順はふぅっと溜息をつきながら、右手の指先で眼鏡をかけ直した。



【下町 章安区】

「ああ、本当に勿体無い事をしたわ!!」

夕鈴はまだ父親が持ってきたおいしい仕事とやらを断った事を後悔していた。
しかし、饅頭屋のバイトを途中で放り出す事は出来なかった。

几鍔のオババ様の知人という饅頭屋の女将は、何年も前に旦那さんが亡くなった後、たった一人で饅頭屋を切り盛りしてきたそうだ。

其れなのに、ある日金目当ての暴漢に襲われて腕の骨を折る大怪我を負ってしまった。
店は暫く閉めていたが、ずっと閉めている訳にも行かない。其れでとりあえずバイトでも雇って店を続けられれば…とオババ様に話しが行ったのだ。

そんな事情もあるし実際に会ってみると、口は悪いが厳しいながらも上手く出来ればしっかりと褒めてくれる、気風の良い婦人だった。
饅頭も何回か通ってやっと及第点を貰えたところだ。

そんな時に、もっといいバイトがあるのでやっぱり辞めます…なんて言えない。

「もう、こうなったら饅頭を売って売って売り倒して稼いでやるんだからッ!」
夕鈴は決意も新たにやる気に満ち溢れていた。
│posted at 00:43:00│ コメント 0件
2015.11.11(水)

小犬陛下と饅頭屋 1ー5

《それぞれの始まり》


【王宮・謁見の間】

その部屋にある物は全てが優美でありながらも荘厳な雰囲気を醸し出し、国王の権威の程を見せつけている。

趣向を凝らした赤を基調とした内装。
シンプルながらも最上の材に細く壮麗な細工をふんだんに施した玉座。
ゆったりと部屋を彩る美しい刺繍で飾られた絹の垂れ布。
どれもこれもが洗練されていて、他国の使者も眼を見張る程だという。


そんな場所に突然連れて来られた少女は、酷く狼狽えていた。

「あの。私…。短期の王宮仕事って聞いてきたんですけど…。」
怯えた様子の少女が小声で問う。

眼鏡を掛けた長髪の青年、狼陛下の側近である李順は諭すように答えながら少女の顔を見据えた。
「ええ、ですからこの一か月間、後宮でお務め頂きたいのですよ…。」

「趙 麗華殿。」


一体どういう事なの!?詳しい話は直接という話だったけれど…。

少女はそっと目の前の人物を盗み見た。
部屋の中央の玉座には噂に名高い冷酷非情の狼陛下がゆったりと頬杖をついて座っている。
冷たい雰囲気すら魅力に思える程の美丈夫な青年王。


そして。

「国王陛下の臨時の花嫁として。」

側近の声が響いた。





【下町】

夕方の下町は何かと騒がしい。

夕飯にと買い物をする人々やら仕事から家に帰る途中で知り合いに会って話し込む人々やらで、大通りはこの時間いつも賑わっていた。

そして、大通り近くの饅頭屋がある通りも、同じように多くの人々が行き交っている。

「じゃあ、よろしく頼むよ、夕鈴。几鍔も頼んだよ!」
「おう。」
「何であんたも居るのよ…!」
「いいじゃねえか。別に。」
「良かないわよ。もう。」

饅頭屋の前には、旅支度をした年配の女性と夕鈴、そして几鍔の姿があった。
顔を合わせると直ぐに喧嘩を始める2人を見て、女将は相変わらずだねえ、と笑った。

「女将さん。私頑張っていっぱい売って売って売り倒しますから、安心して治療に専念して来て下さいね!!」
「…分かってるよ!…ま、期待はしてないけど、楽しみにしとくからね!」
女将は豪快に笑いながら夕鈴の肩を叩く。
「そんじゃ、行ってくるよ。」
そう言うと、馬車に乗り込んだ。

夕鈴が1人で作った饅頭に満点合格を出した次の日、女将は怪我の治療と、以前から患っていた持病の養生をする為、隣の都に住む息子夫婦の所でゆっくり休む事を決めたのだ。

「店の売り上げは、夕鈴から預かったらウチで管理して、アンタには週一で届けるからな。」
「済まないね、几鍔。」
「どうせ週一で店の誰かは隣都に行ってんだ。ついでだよ。」
几鍔は照れ隠しなのか項をガシガシと掻きながら答えた。
「それから、あんまり無理しないでおくれよ、夕鈴!
あんたは直ぐに無茶するから。わかったね!」
動き出した馬車の中から女将が夕鈴に声を掛けた。
「はーいっ!女将さん、行ってらっしゃいっ!!」
夕鈴が元気に手を振って見送る。
女将は夕鈴の姿が見えなくなるまで笑顔で手を振り返してくれた。
│posted at 00:47:32│ コメント 0件
プロフィール

えぐち

Author:えぐち
江口(。-_-。)と申します。
場合によって、漢字のみだったりひらがなだったり。
どうぞよろしくお願い致します。

当ブログは、原作・原作者様・出版社様とは一切関係がありません。
初めましての方は、『はじめに』をご覧下さい。

 
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