2015.12.19(土)

小犬陛下と饅頭屋 4-1

【白陽国 王宮 大広間】


ずらりと居並ぶ白陽国の重臣や高官達。

冷ややかな面持ちでその者たちを威圧する狼陛下。


「陛下、これは陛下の御為、そしてこの国の…秩序の為で御座います。」

今、陛下の目の前に傅いて言葉を述べる高官に、皆が注目していた。

「どうか、他の様々な花も後宮に御迎え下さいませ。」

そして高官は深々と頭を垂れた。

中々妃を娶らない黎翔が突然妃を後宮に迎えて、臣下達はようやくかと喜んでいたのも束の間、今度はその妃を唯一と言い後宮に他の妃を入れようとしなかった。
それでも、それからもう半月以上は経っている。
どれほど寵愛が深かろうが、そろそろ陛下も周りを見る余裕が出来たのでは…。
そう思って久々の後宮への進言。

皆がこの後陛下がどういった反応をするのかと固唾を呑んで見守る。

誰も彼も皆、自分の娘や縁戚の娘を後宮に入れたいのだから当然の事だろう。

黎翔の口角がゆっくりと上がる。

「ほう、様々な花、か。」
興味があるかの様な陛下の言葉に、高官も思わず興奮気味になった。
「はい!左様で御座います。花にも其々に違った良さが御座います故。例えば我がー…」

「要らぬ。」

一瞬、何を言われたか分からなかった高官は戸惑った。
そして、同じ様に周りの者にも動揺が走る。
「へ、陛下、どうかお話しだけでもお聞きー…
「…くどいッ。」
冷たく切り捨てる様に高官の言葉を遮る。
黎翔は先程の笑みは消え、何とも不機嫌そうな表情を浮かべている。

「私の花は…1人で良い。今はその話は終わりだ、何度も蒸し返すな煩わしい。
次の件に移れ。」

「……御意。」
陛下の冷酷な物言いに、その場にいる家臣が一斉に傅いた。



【白陽国 執務室】


「臨時妃のおかげで、アレ断るのが随分楽になったな〜。」
「そうですね。先日後宮にいたネズミも捕まえる事が出来ましたし、思った以上の成果が出ましたね。」

黎翔は卓上の書簡に目を通しながら、側近の李順と期待以上の臨時妃の効果に頷き合った。

「では陛下。臨時妃の件ですが、そろそろ次の者を決めないといけませんね。
因みに趙妃の延長は?」
「ないっ!」
即答である。
「……でしょうね。
では次の候補者である呂 彩月か、前回の第一候補だった汀ー…」
「ああ、もう選出は李順に任すよ。
只、今度はもっとちゃんとした人にしてね。」
余り人選に興味のない黎翔は、有能な側近に全てを投げた。
「……善処致します。」

臨時とはいえ、ひと月一緒に過ごす者なのに…。

李順はひとつ溜息をついた。


│posted at 21:56:06│ コメント 0件
2015.12.19(土)

小犬陛下と饅頭屋 4-2

ー数日後ー


黎翔は妃への寵愛を見せ付ける一環で、臨時妃を伴い飾職人や宝石商などの商人達の謁見をする事になった。

先日下町で見た品も細工は中々良かったが、矢張り王宮お抱えの商人達の持って来るものは格が違う。
どれも様々な宝石がはめ込まれており、豪奢な造りの品ばかりだ。

趙 麗華は輝く宝飾品に有頂天になり、彼方も…此方も…と次々と手に取っては、コレは似合いますでしょうかと黎翔に尋ねる。
何時もなら苛立ちを堪えて相手をする黎翔だが、この日は違った。

「それも良いが、此方は…?」
などと、嬉し気に趙 麗華に合わせ演技をしている。
周りから見れば、楽しそうに簪や首飾りを選ぶ最愛の妃を愛おしげに見つめる狼陛下。
噂通りの寵愛ぶりだと商人達の中でも噂になるだろう。
黎翔の演技に李順も大満足の様だ。

熱心に臨時妃を見つめる黎翔。

それには理由がある。



成る程、女性はキラキラしてるもの程喜ぶものなのだな。

小振りな物よりは大きめの物か。

より豪華な方を選ぶ、と。



黎翔は臨時妃の反応を見ながら、ここぞとばかりに女性が好むモノ情報を集めていた。

三人目の飾職人が品物を並べた時、黎翔は徐にある髪飾りを手に取り、それを寵妃の髪に当てた。
そして、今まで李順すら見た事のない様な柔らかな笑みを浮かべた。

それは其処にいる全ての者を魅了する程の穏やかで美しい微笑み。


うん、この髪飾りなら大きさはそこそこだけど、キラキラしてて、豪華だ。造りも良い。
それに夕鈴の髪の色は臨時妃より明るいから、きっとこの髪飾りが良く似合うだろう。
…コレにしよう。


黎翔がそんな事を考えているなど知らない臨時妃は、その微笑みに心をときめかせながら、うっとりと魅入っていた……。
│posted at 21:58:02│ コメント 0件
2015.12.19(土)

小犬陛下と饅頭屋 4-3

『妃への寵愛を見せつける』作戦は、黎翔のいつも以上に熱心な演技(?)のお陰で大成功となった。

謁見後、隠密を使いに出し直ぐに目当ての髪飾りを手に入れた黎翔は、夕鈴の喜ぶ顔を想像し心踊らせながら政務に励んでいた。


ああ、早くあの娘…夕鈴の喜ぶ顔が見てみたいな…。一体どんな表情を見せてくれるのか楽しみだ。

それに…食べたい食べたいと思っていたお饅頭も、結局まだ食べる事が出来てないし。
明日、行ってみようかな。


…明日ね、明日…か。


黎翔はゆっくりと政務室を見渡した。

目の前には山積みされた書簡。
そして何時になく機嫌の良い狼陛下に少し気が緩んだ官吏達…と、それを忌々しげに睨む柳 方淵。


明日あの饅頭屋に行くには……。
今日中にかなりの仕事を終わらせないといけないなぁ……。


突然、険しい顔で仕事のスピードを上げた狼陛下。

先程まで機嫌が良さそうだったのに一体何がどうなって…ッ!?
官吏達はがらりと変わった陛下の雰囲気に酷く動揺した。

「どうした?手が止まっている者がいるようだ。
……そんな暇な官吏は此処には居ない筈だが?」
その声は身震いする程に冷たく、有無を言わさぬ強い威圧感に溢れている。

何が何だかさっぱりわからない。
だが今の状態の陛下に求められた仕事は、とにかく素早くそして正確に処理しなければ、それはそれは恐ろしい叱責を受ける…かもしれない?

恐怖に取り憑かれた官吏達は、気力を振り絞り、怒涛の勢いで次々と仕事を終わらせていった。

そして夜。
政務室にはぐったりと机に突っ伏す戦い抜いた官吏達の姿があった。



【王宮 執務室】

「陛下、熱心に仕事に打ち込まれるのは大変素晴らしい事です。
ですが、もう少し手加減されませんと…。」
政務室の惨状を見かねた李順は、少し様子の違う黎翔を怪訝そうに見つめた。

普段からデスクワークを嫌っている黎翔。
なのに今日はきみが悪いほど精力的に政務をこなしていた。
今は…いつもと変わらない様に思えるのだが。

「…まあ、とにかく今日の様な進め方をしますと、いずれ官吏達が皆倒れますよ?」
李順の言葉に、書簡に目を通していた黎翔が顔を上げ口元を緩めた。
「…政務が滞り気味だったのでな。
フン、普段からもっと気合いを入れて仕事をしておけば良かったんだよ。」

…そうしたら、今日贈り物を渡しに行けたかもしれないのに。

│posted at 22:14:31│ コメント 0件
2015.12.19(土)

小犬陛下と饅頭屋 4-4

「それから、以前お話しされていた下町の傷害事件の件でひとつ気になる事が…。
商店の多い場所の近くで多く発生しているとのことですが、特に手酷く暴行を受けていた被害者達に1つ共通点がありまして。」
「共通点…?」
「はい。どの被害者もその商店が並ぶ通り近辺に店を持っていて、その店を1人で切り盛りしているという点です。」
「……単なる金目当てでは無い…か。」
「恐らく。」
「まあただの金目当てなら後ろからひと殴りで事足りるからな。」
「……知った風に言わないで下さい。何だかとても不安になりますので…。」
「 いや、僕も善良な町人相手には「それ以上は聞きたくありませんっ!!」
李順の顔は酷く蒼ざめている。
「ですので!管轄の警備所が見廻りの強化と傷害事件の詳しい捜査をするとの事ですよッ!!」
お分かり頂けましたか!?と言いながら、ぐいっと書簡を突き出して来た。
「……わ、わかった。」
黎翔は躊躇いつつ書簡を受け取った。
傷害事件の詳細が地図と合わせて分かりやすく書かれている。

ええと、ここが大通りだから……。

黎翔は無意識に夕鈴のお店の場所を探していた。


夕鈴のいる饅頭屋…の…女将も被害者……?
しかし先程李順は1人で店を切り盛りしている者が狙われたと話していたが…。


「それと、もうひとつ陛下にご報告をと思いまして。」
「ああ、なんだ?」
黎翔は書簡に見入ったまま返事をした。

「臨時妃の件ですが、次は呂 彩月という方に決めさせて頂きました。性格は極めて真面目だそうですから、今回の様な事はないと思われます。」

「そうか、分かった。呂 彩月だね。」
そう言うと、また傷害事件の詳細に目を向けた。


臨時妃など、誰が来ても自分がする事は対して変わらない。
次は鬱陶しくない者ならそれで良い。

それよりも今は夕鈴の店の女将の詳細を読む方が重要なのだ。


「ああそれから、前回第一候補だった汀 夕鈴ですが、今回も否との返答でした。
…もう候補者から外そうかと考えているのですが、宜しいですか?」

「ああ、汀…ゆうりん……?」

「ええ、今回もまた住み込みする余裕が無いと断って来ましたので…。」

李順は数枚の書類を黎翔に手渡した。

汀 夕鈴。

其処には夕鈴という名が。


そうか……。
何処かで『夕鈴』という名を聞いた事があると思ったら…。
以前臨時妃の話を断って来た汀…、汀 夕鈴か!


│posted at 22:18:20│ コメント 0件
2015.12.19(土)

小犬陛下と饅頭屋 4-5

「陛下?……どうかされましたか?」

「いや、何でもない。…取り敢えず交渉は続けておけ。
第一候補者だったならきっと良い働きをしてくれるだろうからな。」

「……畏まりました。
それでは陛下。報告は以上ですので、私は本日これにて失礼致します。」

「ああ、明日もよろしくね。」


ゆっくりと政務室の扉が閉まるのを見届ける。
そして、足音が遠ざかった所で急いで書類に目を通す。



汀 夕鈴 17歳

・章安区に下級役人の父と弟と三人暮らし
・健康面良好
・菓子屋と食事処のバイト有り
・性格は真面目で明るく、幼い頃に母を亡くし弟の世話をして来たからか、面倒見が良い
・仕事振りは素晴らしく、堅実で勤勉


……これは、やっぱりあの『夕鈴』かも。
章安区はあの店からかなり近くにある区だ。
明るい性格。掛け持ちの仕事。勤勉な所も。


あの娘が臨時妃の第一候補者かもしれないなんて……。


もし夕鈴が臨時妃として来てくれたら、くるくると変わって面白い彼女の表情を余すところなく見られるのだろうか。


妃衣装を身に纏った夕鈴の姿が目に浮かぶ。




『陛下!』



あの明るい笑顔で自分を呼ぶ夕鈴。



『これを…私に?』

『……嬉しいです!』



自分が選んだ簪を手に取り、頬を染めながらそれは嬉しそうに微笑む夕鈴。





「……夕鈴。」
│posted at 22:20:00│ コメント 0件
プロフィール

えぐち

Author:えぐち
江口(。-_-。)と申します。
場合によって、漢字のみだったりひらがなだったり。
どうぞよろしくお願い致します。

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