2015.11.12(木)

李順の謀 2

李順は急いでいた。

ーー自分が部屋を空ける予定はなかったのに…。

予定ではまだ陛下は、宰相殿と会談中の筈だった。

まさかあんなに早く会談が終わるなんて。
その報告に、陛下自ら普段訪れもしない自室に来るなんて。
更に、急ぎの用事を頼まれるなんて。
陛下が『その間この部屋で待つ』と自室に居座るなんてっ!←(移動メンドくさいとか何とか)

想定外の事が続いている。

黎翔は謀の匂いに対してまで狼並みの嗅覚を持っているのか、隠し事が本当に難しい。

ーー自分が戻るまで部屋に誰も来ない様にと従者に言付けを頼んだが…。
入れ違いになってもいけない。

自室前にようやく辿り着いたその時。

バンッ!

勢い良く扉が開き、中から黎翔が飛び出して来た。

「陛下?!」
ゆっくりと振り向いた黎翔は、李順の姿を鋭く睨めつける。
まるで飢えた若い狼の様だ。

「李順…、お前…。」

ふと部屋の中を見遣ると、涙を浮かべ怯えた表情の女官がへなへなと床に崩れ落ちるのが見えた。
黎翔は一体どんな恐ろしい姿を見せたのだろうか。

ーー全て…知られてしまった様ですね。

李順は動揺を隠し、真っ直ぐに黎翔を見つめた。
「陛下、どちらへ行かれるのですか?
まだ…政務室の方に仕事が残っているでしょう?」

その言葉に、黎翔の眉が僅かに動く。
少しずつ辺りを冷気が漂う。

「…急ぎの仕事はもう終わったはずだが。」
「陛下!」
「何故隠していたのか、まぁ理解は出来るが…。」

紅い眼が燃えるように揺らぐ。

「もう、我慢の限界だッ!」

怒気にも似た恐ろしい程の威圧感を醸し出しながら狼陛下が走り出す。


「陛下っ!
お妃様のお考えでも御座います故、どうかお戻りをっ!!」

駆け出した黎翔を引き留めようと声を張り上げたが、あっという間に姿が見えなくなった。






「……。」



ーーまだ政務が残っていたのに…。
こうなるからこそ黙っていたのに。



ここの所、黎翔は激務続きだった。
1週間程夕鈴に会えてもいない。

そんな黎翔の為に用意したご褒美が、
『夕鈴の手作りの菓子でゆっくり午後の休憩』

その準備が出来たという報せを仕事が終わるまで隠そうとしたのだが…。

たったそれだけの事であの形相。


ーーやはり、どうかしてしまったんでしょうかね。


無意識に胃の辺りに手を当てながら、李順は深い深い溜息をついた。
│posted at 14:34:29│ コメント 0件
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