2015.11.26(木)

小犬陛下と饅頭屋 2ー5

《ワケアリのお客さん》


その日の早朝、夕鈴の店にまた几鍔がふらりとやって来た。
自警を買って出てくれた若い衆達に店の饅頭と夕鈴が得意な点心の差し入れをしてやってくれと、大口の注文をしてくれたのだ。点心の材料も几鍔が持参してくれたので、金銭的にもかなり助かる。夕鈴は二つ返事で引き受けた。

几鍔から注文された饅頭を折に詰めた後、贔屓にしてくれる御近所さんたちも次々と来てくれ、気がつくと饅頭はあと2つ…。今日は早めに店を閉めて差し入れ用の点心でも作ろうか…、と思いつつ表に出していた蒸し器を抱えた時、背後から声を掛けられた。

「あのっ、こんにちは!」
「いらっしゃいませ…あっ!」
声がした方へ目をやると、そこには…以前ワケアリ饅頭を渡した眼鏡の青年が立っていた。

「この間の…!
わぁ、お客さん、来てくれたんですね!!」
嬉しくて思わず声が大きくなる。
ワケアリ饅頭はどうやら気に入ってもらえた様だ。
夕鈴が自分のことを覚えていたと分かり、お客はそれは嬉しそうな笑顔になった。
「この前約束したからね。…今日はお饅頭あるかな?」
そう言いながら、夕鈴が抱えている蒸し器を見つめた。表に出していたのを片付けているので不安になったのだろう。
「ええ、ありますよ。ギリギリ、最後の2コです!」
「ああ、良かった!これが食べたくてずっと我慢してたんだ。」
「まあ…!」
ホッとするお客の顔を見て、夕鈴は楽しそうに笑った。
「そんなに気に入って頂けて良かったで……あ。」
夕鈴は、お客の斜め後ろを見つめて突然困った顔になった。

お客が振り返ると其処には、今にも泣き出しそうな小さな女の子と男の子が…。

「もしかして……お饅頭を買いに来たのかな?」
こくりと頷く子供達。

自分も…何日も我慢してたんだけど……。でも……。
お客は気まずそうに夕鈴と顔を見合わせた。

夕鈴は困惑気味にチラリと奥を気にしては、また何とも言えない顔になった。
と言うのも、今朝来た几鍔にワケアリ饅頭を出してやった所、見事に全部食べられてしまったからだ。
もう、味見に使える饅頭もない…。
夕鈴は無理やり笑顔を作ると子供達に話しかけた。
「その、ごめんなさいね…。今日は…」
「待って!」
お客は夕鈴の言葉を遮り、しゃがみ込んで子供達に優しく問いかける。
「…2個で良いのかな?」
「「うんっ!!」」
子供達は元気良く頷くと、ぱああっと笑顔になった。

それを見てお客も優し気に微笑んだ。

「さあ、包んであげて?」

「え、…でも。」

「僕は…また今度買いに来るから。」

何て優しい人なんだろう…。
よく見ると眼鏡で隠れ気味だが、切れ長の目元が素敵な美形の青年だ。

顔が良いと心にも余裕が出来るのかしらね〜。
そんなちょっとズレた事に感心しながら夕鈴はぺこりと頭を下げ御礼を言った。
お客は満足そうな顔で、うんうんと頷いてくれた。

│posted at 17:11:12│ コメント 0件
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