2015.11.26(木)

小犬陛下と饅頭屋 2ー6

「ハイ。」「ハイどーぞ。」

夕鈴が包んだお饅頭を青年が受け取り子供達に1つずつ手渡していく。
「「ありがとう…!」」
御礼を言いながら無邪気に喜ぶ2人に、お客の青年が「きちんと御礼が言えて偉いね。」と頭を撫でてやると、子供達はきゃあきゃあと大はしゃぎだった。それを見て夕鈴とまた顔を見合せ、笑い合う。

ああ、何て和やかな時間なんだろう。

青年は夕鈴の笑顔を見つめながら、心が暖かくなっていくのを感じていた。

「また来てね〜!」
夕鈴とお客は、駆けて行く子供達に手を振りながら見送ってやった。

「本当に、ごめんなさい!折角来て頂いたのに…。」
「まあ、あんな小さな子達に悲しそうな表情させちゃうのは…ね。」
「お優しいんですねぇ…。」

お客の青年は、夕鈴に優しいと言われて何だか照れ臭そうにはにかんだ。
「いや、でも、余り小さな子供達と接する機会がないから、新鮮で楽しかったよ。」
そう言いながら、夕鈴の方へ向き直る。

「下町のコはみんな…可愛らしいね。」
お客は夕鈴の瞳をじっと見つめながら呟いた。

だが、そんなお客の目線にまったく気が付かない夕鈴は、ただ悲しそうにしているだけだった。
「今日は…ワケアリ饅頭もなくて…。」

ああ、こんな事ならさっき几鍔に出したお饅頭、1つ置いておけば良かった。

何だか色々諦めた顔のお客は、落ち込む夕鈴に優しく声をかけた。
「いや、本当に気にしないで。また来るよ。」

そうだ。今度来てくれた時は絶対にお饅頭を食べて貰おう。…あんなに嬉しそうにしてくれてたんだもの!

夕鈴は気合いを入れるようにシャキッと姿勢を正した。
「そうですね!では次は…必ず買ってもらいますからっ!」

お客は暫く真顔になった後、クスクスと笑い始めた。
「その言い方、何だか…押し売りみたいな感じになってる…。」

しまった。また勢いで失敗しちゃった…。
夕鈴は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

「あっ!ごめんなさいっ!
えー、買ってもらえるようにします、じゃないわよね?必ず買って下さい、はやっぱ強要してるみたいだし…。」
「あははっ!!」
お腹を抱えながら笑うお客の青年は、本当に楽しそうだ。
「うう…。
では…、また来て下さいね!でっ!!」

赤くなりつつも営業スマイル全開で挨拶を何とかキメた夕鈴に、青年もにっこりと微笑み返した。

「うん!じゃあ、またね!!」





ああ、やっぱり面白い娘だった。

饅頭は口に出来なかったが、あんなに楽しい時間を過ごせただけでも来て良かったかな。


しかし、食べられると思っていた物が食べられないのは地味に辛い。

必ず…。

近い内に、またあのお店に行こう…。

今度はもっと早めに。


そんな事を思いながら、お客の青年は大通りへと歩いて行った。
│posted at 17:12:32│ コメント 0件
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