2015.12.07(月)

小犬陛下と饅頭屋 3ー3


「もう、あいつらは血の気が多いというか何というか見境なく声掛けてんのかしら…。」
ブツブツと文句を言いながら裏路地から大通りまで出て来た所で、夕鈴はずっとお客の袖を引っ張り続けていた事に漸く気付いた。
「あ、ごめんなさい!つい引っ張っちゃって…。」
袖がよれてしまっていたので慌てて整えてあげている間、お客はニコニコと嬉しそうにしていた。


「いや、本当にありがとう。絡まれちゃってこれからどうしようかと思ってたから、助かったよ。」
お客はまたほんのりと頬を染める。
「こちらこそ、知り合いがご迷惑をお掛けしてしまってごめんなさい!
…実は最近、この辺に金目当ての暴漢がいるらしくて、怪しい人が居ないか若い衆達が見廻りしてるんです。
多分、お客さんの事を見たことなかったから、あんな事を…。」
「ああ、そうだったの。見廻り、自分達でしてるって事?
ここらの警備兵とか、…町の巡回とかしてるんだよね?」
「……お願いはしてるんですけど…ね。腹立たしいけど、他が忙しくて手が回らないそうなんです。」
そう言って夕鈴がお客の顔を見上げた時。

「ー…。そうか。」
一瞬、お客の眼が…別人の様に見えた。

ゾクッとする程に冷たい深紅の瞳…。

…だった気がしたが、改めて見るとお客は何時もの優し気な表情で、なるほどねぇ、と小さく頷いていた。
「えっと、あの、だからあんまり裏路地は使わない方が良いですよ?」
「うん、…そうだね。ありがとう…夕鈴。」
お客は優しく微笑んだ。

「まぁ、とにかく何事も無くて良かったです。それじゃ、お客さん。気を付けて帰って下さいね。」

「あ…待って!」

笑顔で去ろうとした夕鈴だったが、お客に腕を掴まれ引き止められた。

「ねぇ、助けてもらった御礼がしたいんだけど、…この後時間ある?」
「えっ?御礼なんて、結構ですから。
あのバカな奴らが失礼な事したんですし、こっちがお詫びをしなくちゃいけない位です。」
「そんな事ないよ。君がお客だと言ってくれたお陰で助かったワケだけど。
僕、まだお饅頭一度も買ったことないんだよ?」
「あ、本当だ…!
でもまあ、お店に来てくれてたんですから、大事なお客さんです!」
クスクスと夕鈴が楽しそうに笑う。

その表情が、なんとも可愛らしく見えた。

│posted at 13:30:02│ コメント 0件
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