2015.12.07(月)

小犬陛下と饅頭屋 3ー4


お客はスッと夕鈴の手を取り、自分の両手で優しく包み込んだ。

余りにも自然な動きだったので、夕鈴も意識する事なくされるがまま…。


「だから…是非、君に御礼がしたい。ダメかな?」
そう言うと、お客は夕鈴の瞳を見つめた。


それはまるで小犬が遊んでくれる…よね?と期待を込めて見上げる表情の様で、断るのが酷く躊躇われる……。


顔が良いと、これほどまでにお願いを聞いてあげたくなるものなのかしら。

夕鈴はまたそんな風にズレた事を考えていた。


そして、そこでお客と手を重ねている事に今更ながらに気が付き、赤くなりつつもサッと手を離す。

…お客は残念そうだ。


「あの、お気持ちは嬉しいんですが、この後も買い出しとか家事とか他のバイトとかありますから…ごめんなさい。」
そう答えると、夕鈴は深々と頭を下げた。

「…えッ!この後に家事や他のバイトもあるの!?」
「ええ、隣の区のお食事処で。だから…ごめんなさい。」
「な…なら」
「そうだ!良かったらお客さん、今度そちらの方にも来て下さいね。
美味しい水餃子があるんですよ…っ!!」

夕鈴得意の元気な営業スマイルが眩しい。

余りにも素っ気ない断られっぷり。
更に話題も変えられ、どうする事も出来そうにない。
「そうか…。じゃあ今度そのお店にも行くからね。」
お客は力なくそう答えた。

「よろしくお願いします!
言って下されば予約なんかもしておきますからね。結構人気のお店なんで…ああ、そう言えばっ!」
夕鈴は何かを思い付き、おずおずとお客を見上げた。

「お客さん……、お名前をお聞きしても…?」


「えっと、僕は……り…しょう。…李翔だよ。」
李翔と名乗ったお客は何度か頷くと、柔らかな笑みを浮かべた。

「…李翔さん、ですね?
それでは李翔さん、いつでも言って下されば予約しておきますから!」
そう言うと夕鈴はペコリとお辞儀をした。

「私、買い出しがあるのでそろそろ失礼しますね。
じゃ、また、お店に来て下さいねっ!」

明るく手を振りながら去って行く夕鈴の姿を、李翔は手を軽く挙げたままぼんやりと見送った。

「うん、また、必ず……。」


│posted at 13:33:00│ コメント 0件
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