2015.12.19(土)

小犬陛下と饅頭屋 4-7

夕鈴が店の前まで来た時、ふと隣の店との間にある狭い路地に黒っぽい影がちらりと見えた。

ん?
ここにはあんな黒いもの置いてなかったんだけど。

不思議に思い覗き込む。
普段使わない木箱や小道具などが置いてあるその隙間に、隠れる様に何か……居る。

…すっごく大きな犬…?と思ったが、黒い布地で身体がすっぽりと隠れてしまっているものの、どうやら座り込んでいる人の様だ。


「なぁッ?!」


まさか…行き倒れ…??どうしよう…誰か呼んで来た方が……と考えたところで、うずくまっていた人物がピクリと動いた。

ゆっくりと顔を上げたその人物は……。


「ええっ!?り…李翔さん??」

座り込んでいたのは、先日店に来た後几鍔の子分達に絡まれていた、あの優しい美青年(夕鈴評)李翔だった。


李翔は夕鈴の顔を見て、ふにゃりと笑顔になる。

「……あぁ、夕鈴。えーっと、おはよう、かな?」
「どうしたんですか?!こんな時間にこんなトコで!!」
とりあえず立てますか?と手を差し伸べると、李翔は嬉しそうに一段と柔らかな笑みを浮かべた。
「ありがとう…。」

元々端正な顔立ちだと思うが、今の笑顔は見入ってしまう程綺麗だ。その魅力に当てられ、思わず夕鈴も頬がほんのりと紅くなる。


羨ましいわ……
顔が良いとこんなにも人受けする笑顔が作れるのね〜…


夕鈴はまたそんな事を考えながら李翔の手を引いた。

「こんな所で座り込んだりしてたら、またあいつらに絡まれますよ!」
「あー、そうか。あんまり考えずに来ちゃったから……。でもまあ、絡まれてたらきっとまた君が助けてくれるよね?」
そう言うと李翔は可笑しげにふふっと笑った。
「もう、そんな事言って…!
それに今の時期は、まだまだ朝晩冷え込むんですよ?風邪でも引いたらどうするんですかッ!?」
李翔の手は、酷く冷たくなってる。

何があってこの人はこんな所に座り込んでいたのか……。

「うん、ありがとう。どうしても…その…君の……お饅頭が食べたくてね…。」
「はぁ!?」

まさか饅頭が食べたくて、こんな早朝から地べたに座りこむ人が居るとは思ってもいなかった…。

夕鈴のそんな反応に、また李翔は可笑しそうに笑う。

「取り敢えず話は後にして、店に入って下さい!
外よりはマシでしょうから。」
「え…?いや〜…此処で待ってるから、出来たら呼んでくれたので構わないよ。」

流石にまだ開店前の誰も来ない時間帯に、女性1人の場所へずかずかと入って行くのは戸惑われる。

「何言ってるんですか!こんなに身体冷やしたままでいたら、本当に風邪引きますよっ!!
とにかく中へどうぞ!」

夕鈴は急いで店の鍵を開けると、戸惑う李翔を半ば強引に引っ張って中へ入れた。





夕鈴は店の中の長椅子に李翔を座らせると、奥から店に常備している膝掛けを持って来た。

「お饅頭はこれから作りますから、少し休んでて下さいね。」

「ありがとう。でも……僕ここに居ていいの?」

「別に構いませんよ!ちょっとがたごと音はすると思いますけど、外にいるより休めるでしょ?」
「うん。それはそうだけど。」
「じゃ、ちゃっちゃと作っていきますから待ってて下さいね!」
そう言うと夕鈴はテキパキと道具を出し、桶を持ってサッと裏口から出て行ってしまった。


どうしよう。
完全に先日の御礼を言うタイミングを逃してしまった……。


李翔は懐にしまった小箱を服の上からそっと撫でた後、深い溜息をついた。


まぁ、お饅頭が出来て一息ついてからの方が良いかも。


そう思い直し夕鈴が戻って来るのを待つ事にした。

│posted at 22:23:37│ コメント 0件
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