2015.12.24(木)

小犬陛下と饅頭屋 5-4


じっと何かを考えながら見つめてくる李翔に気がつき、どうしたのかと少し戸惑う夕鈴。

不思議に思い首を傾げながらも、取り敢えず李翔に微笑んでみた。

「どうかしたんですか?」


ーーその上目遣いの微笑みが、昨夜想像した妃姿の夕鈴とシンクロするーー


夕鈴……。


思わず頬に触れようと手を伸ばし……た所で湯呑みに手が当たり李翔は我に返った。
コトコトッと湯呑みが揺れる。

慌てて湯呑みを掴もうとしたが、湯呑みは倒れ、床に落ち大きな音を立てて割れてしまった。


「あっ!」
「ご、ごめんねッ!!」

李翔は普段しない失敗をして動揺してしまった。

せっかく夕鈴が淹れてくれたのに……!

「大丈夫ですか!?やけどはしてないですか??」
「ああ、それは大丈夫だよ。それより湯呑みを割ってしまったから…」
「ちょっと見せて下さい!」

夕鈴は言葉を遮り両手で李翔の手を強く掴んだ。
手の平、手の甲、指先とやけどをしてないか確認していく。



柔らかい彼女の手が触れている。

其れだけの事なのに、何故こんなにも身体が熱くなるんだろう……。


「ん!大丈夫そうですね。良かったです。」
李翔の手にやけどが無いことを確認し、安堵の表情を浮かべながらそっと手を離した。


「うん……ありがとう。でも、湯呑みが……。」
「あー、まぁ、形あるものはいつか壊れる時が来るもんです。気にしないで下さいね!」
「いや、気にするよッ!……今度弁償するから…!!」
「ええ??そんなに気にしなくても……。
じゃあ、折角だから今度代わりの湯呑みを持って来て下さいますか?」
夕鈴が嬉しそうに提案する。

「うん……分かった。必ず。」


李翔のその返事を聴いて、また笑顔で割れた湯呑みをテキパキと片付け、新しくお茶を淹れなおしてくれた。


ああ……本当に…優しくて働き者だな。

湯呑みを割ってしまったのに、それよりも自分のやけどを一番に心配し、嫌な顔一つしないで割れた物を片付けてくれた。

やはり……この娘に臨時妃に来て欲しい。

先ずは色々と確認しなければ……。

「そう言えば、夕鈴はずっと此処で働いているの?」
「いいえ?働き出したのはひと月程前からなんです。
まぁ、働いたというより見習いのような期間が結構ありましたけど。」
「ふーん、そうなんだ。
饅頭屋さんも似合ってるけど……他の仕事とか考えた事ってないの?」
「他の仕事ですか?
ああ!!ありましたよ?
この仕事を本格的に始めるって時に、凄く良い王宮でのバイトの話があったんですけど、もう此処のバイトが始まってて……。
王宮ですよ!?王宮!!勿体無かったな〜!
先日またお誘いがあったんですけど……はぁ。」

今の所、住み込みは無理なんですよね〜、と夕鈴が溜息交じりに話してくれる。

「そうなんだ……。それは残念だったね……。」



夕鈴。


やっぱり君が臨時妃の第一候補者だったんだね……。


夕鈴が住み込みバイトを断った時の事を考えた一瞬、李翔の紅い眼が妖しく揺らいだ。

│posted at 14:58:37│ コメント 0件
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