2015.11.11(水)

小犬陛下と饅頭屋 1ー3


《選択》

紅い眼の男が饅頭屋を訪れる2週間程前の事。

【下町 章安区】

大通りの八百屋の前で大根を嬉しそうに受け取る少女が見えた。値切りに値切ったのだろう、店のおじさんは酷く悔しそうな表情を浮かべていた。
おじさんに何やら声をかけて店を出た時、彼女の明るい金茶色の髪が揺れた。

まるで子兎の耳の様に、上から中程までの髪の毛を頭上で小さく二つに結っている。後の髪はそのまま垂らしており、彼女が動く度に陽射しを受けてキラキラと輝いていていた。
何処に居ても良く目立つ髪の色と結い方だ。
隻眼の男は先程から探していたその少女に声を掛けた。

「おい、夕鈴。」
「げっ!几鍔!」
「何だよその『げっ』ってのは!」

夕鈴は、かなり嫌そうに顔を顰めている。
この幼馴染の少女は何時の頃からか几鍔の顔を見てはこの顔をする様になった。それが何だか気に入らない。

「ったく、なんて面してんだお前は。そんなだから嫁の貰い手がねぇんだよ。」
「なっ!余計なお世話よーっ!」

夕鈴は凄かましい表情で怒り始めた。これ以上怒らせると話も出来ず罵ってくるだけになるので、早めに用件を伝える事にした。

「フン、さっきより変な面になってんぞ。
それより、お前新しいバイト探してたよな?ちょうど良さそうなのが有るんだが、やらねえか?」
「さっきよりって!…ん、バイト?良いのがあったの!?」
「ああ、区は違うが通えない事ない場所だ。給料は出来高制だが、信用の置ける人だから大丈夫だ。」
「ホント!?」

最近、夕鈴はバイトを探していた。
父親の稼ぎは生活費に消えてしまうだけでろくに貯えも出来ない。それ何処か、夕鈴が必死でやりくりしているにも関わらず、父親は借金までしてギャンブルにつぎ込んだりする。
可愛い可愛い弟は、それを見兼ねて自分も学問所を休んで働こうかと悩み始めたらしい。
でも。
弟の夢だけは何としても叶えてやりたい。
その為の勉強は満足の行くようにさせてやりたい。
それには、今のバイトだけでは不十分だ。
良い条件のバイトに変えるか、短時間バイトを増やすしかないのだ。

「ああ。それに、上手くやれば早く終われる。夕方から明玉んとこのバイト入れりゃあ掛け持ちも出来るぞ。」
「掛け持ちも…!」
夕鈴は俯いて考え始めたかと思うと、直ぐに勢い良く顔を上げた。
「やるわッ!!そのバイトッ!!!」
幼馴染の勢いの良さに思わず笑みが零れる。

「おい、まだバイトの内容も話してねえんだが…。聞かないで決めちまうのか?」
「あ、しまった!」
夕鈴は恥ずかしさで耳まで赤くなった。
この少女はしっかりしている様でいて、実はそそっかしくて何時も目が離せない。新しいバイト先でやっていけるかしばらく覗きに行った方が良さそうだ。


「で?何のバイトなの?」


「ん、饅頭屋だ。」
│posted at 00:39:00│ コメント 0件
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