2016.01.02(土)

小犬陛下と饅頭屋 6‐4

≪李翔にとっては下町デート≫


「夕鈴!!」

聞き覚えのある声・・・。

饅頭屋の店前を掃除していた夕鈴は、顔を上げ声のした方へ振り向いた。
向こうから背の高い男が駆けてくるのが見える。



今日は饅頭屋の定休日。
明玉の店のバイトも休みの為、昼前から饅頭屋のお客さんである李翔と出掛ける事になっている。

どうやら金持ちのボンボンらしく、浮世離れした金銭感覚を持つ李翔。
優しくて顔も良い好青年だが、どうも実家の金銭状況が宜しくないにも関わらず、とんでもない買い物をしてしまう様だ。
そんな李翔にお願いをされ、夕鈴は一緒に湯呑みを買いに行く事になっていた。


「李翔さん!?」
嬉しそうに駆け寄ってくる李翔に、夕鈴は驚きつつも笑顔になった。

「李翔さん、こんにちは!……でも、まだ待ち合わせの時間じゃないですよね??」
「うん、今日は早めに仕事を切り上げる事が出来たから、買い物に行く前に何か手伝えたらと思ってね。
休みの日の朝はココの掃除をしに来てるって隣の店の旦那さんが前に話してたから……。」
「そうだったんですか!」


李翔さん……。

仕事……してたのね!!
何だか安心したわぁ〜。


そんな事を考えている夕鈴に、李翔は優しく微笑み返した。
「それに……君に早く会いたかったしね。」
「……へっ!?」
見れば李翔は妖艶な笑みを浮かべ、夕鈴をじっと見つめている。

突然の言葉に、夕鈴は顔が熱くなってくるのを感じた。


『……絶対に本気にするなよ。』


先日几鍔に言われた言葉が、ぼんやりと夕鈴の頭の中に響いた。




李翔が饅頭屋の手伝いをしてくれたあの日。

李翔は色々な力仕事を手伝いながら、きっちりと二人で買い物に出掛ける日時を決め、開店と同時に満面の笑みで帰って行った。
そして、しばらくすると今度は几鍔がやって来たのだ。

几鍔は夕鈴の無用心な行動を指摘したり、接客態度にも細かな注意を払うように意見した。
しかし。
いつもの喧嘩腰で一方的に話す几鍔に、夕鈴が素直に従うわけも無く……。

開店中に派手に口喧嘩をして、ご近所さんのいい見世物になってしまった。

「……とにかく、お前は騙されやすそうだから気を付けろよな!!
そんな男前がお前の事を本気にするハズねぇんだから。」
「失礼ねっ!!…そもそも本気とかそんなモンじゃないわよ!!」
「そうか、なら……。」

急に真剣な表情になった几鍔。
思わず夕鈴も黙って几鍔の言葉を待った。

「例え何言われても。……絶対に本気にするなよ。
ソイツはきっと遊び歩いて手馴れてるんだから、甘い言葉でころっと騙されてホイホイついてったりするんじゃねぇぞ!!」

甘い言葉で…ホイホイ…?

「わ、分かってるわよ!!
絶対……騙されたりなんてしないから、お客さんを悪く言うのはやめてよね!!」

夕鈴はそう啖呵を切った手前、もうすでに一緒に出掛ける約束をしていると几鍔に言い出せなかった。


絶対……大丈夫だもの。
私は甘い言葉で騙されたりなんて……。


「……りん、……夕鈴?」
「……あ…。」
李翔の声で我に返った夕鈴。
気が付けば李翔に片腕を取られ、そっと引き寄せられていた。

「急に黙り込んで…どうしたの?」
心配そうにのぞき来む李翔。

随分と顔が近い。
もっと言えば身体も近い。

慌てて李翔の手から離れ、いたたまれず顔を背けた。

これが手馴れてる人の距離感…!?
……気を引き締めないと!

「……夕鈴?」
「じゃ、じゃあせっかくなので、ちょっと早いですが、買い物行きますか!?」
耳まで赤くなっている夕鈴のドギマギした様子に、李翔はホッと安堵のため息をついた。


臨時妃とのやり取りが影響したのか、つい甘い言葉で夕鈴を動揺させてしまった。
嫌われたかと思ったが、どうやら恥ずかしがっているだけのようだ。
それにしても。
随分と初心で恥ずかしがり屋なんだな…。
そんな所がまた可愛いけれど。


そんな事を考えながら。
李翔は紅い眼を細めてゆっくりと頷いた。


│posted at 07:39:42│ コメント 0件
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