2016.01.15(金)

陛下、ご褒美を楽しまれる。 1

【二次創作SS】【黎翔×夕鈴】【臨時妃期】【オリキャラ注意】





遠くからでも彼女が其処にいるのが判る。

早く会いたい。
一週間の間、良く我慢出来たものだ。

近付くにつれて、侍女達との話し声も聞こえてくる。
心地よい明るい声。

早く…。
その声を、その顔を、その瞳を。

ーー僕に向けて欲しい。



「夕鈴っ!」

「わぁっ!へ、陛下!?」

背後から声を掛けると夕鈴は大層驚いたらしく、眼を丸くしながら此方を振り返る。

「先ほど侍女が王宮の方にお知らせしに行って戻ったばかりですよ?
お仕事はもう大丈夫なんですか?」
「ああ。…心配ない、我が妃よ。」
花が咲くような彼女の笑顔。
久々に見る夕鈴の姿に、『狼陛下』が今にも崩れそうだ。

足早に側まで行き、おもむろに夕鈴の手を取る。
その手を引いて抱き寄せると、何時ものように恥ずかし気に袖口で顔を隠した。
「ああ、君に触れるのは本当に久しぶりだ。
離れている時が何年にも思えて、耐え難いものだった。
…我が妃にも寂しい思いをさせたな?」

「はっ!?あ、ささ…寂しゅうございました。」
動揺する夕鈴を見るのも久しぶりだ。

「妃と2人で過ごす故、皆下がれ。暫く誰も近づけるな。」
彼女の様子にひとまず満足し、早々に人払いをした。


ーーーーーーーー


後宮の奥にある小さな四阿。

簡素な長椅子に2人並んで座り、ゆったりと庭園を眺めつつお茶を楽しむ。


「では、早速ですが…。」
少し遠慮がちに夕鈴が茶菓子の準備を始めた。
籠から出され、卓に並べられてゆく茶菓子の数の多さに眼を見張る。

「これ、全部夕鈴が作ったの?まだ温かそうだね。」
「あれ?出来たてのお茶菓子が食べたいって仰ったんじゃないんですか…?」
数種類の点心からはまだほんのりと湯気が立ち、美味しそうな匂いが漂っている。
「…それにしても、こんなに沢山。
大変じゃなかった?」
「いいえ、元々調理は大好きですから。
まぁ、李順さんから
『職人さんが出払って居ないので、代わりに今からお菓子を作って欲しい』
なんて言われた時は戸惑っちゃいましたけど…。」
困った人ですね、とでも言う様に小さく肩をすくめる。

ーー李順は夕鈴にその様に伝えていたのか。

「あー、ごめんね?急に…。
もう、とにかく甘い物が食べたくて仕方なくって。」

ーー本当は、仕事もキツイしずっと夕鈴にも会えないし…。『こんなにデスクワークが続いてて、これに見合うご褒美がないとやる気なんか出るか!』と李順にごねまくってただけで、お菓子の事は知らなかったんだけど。
でもまあ、《僕が食べたいと言った》から作ってくれたのだと思うと…、特別な感じがして良い。

「ふふっ。大丈夫ですよ!
大変なお仕事がずっと続いているとお聞きしてましたし。
私も何かお力になれればと思って、頑張ってみたんです。」
そう言いながら、幾つかの茶菓子が乗った皿を手渡してくれる。

ーー頑張ってくれたんだ。

僕の為に頑張った、と聞くだけで自然と気持ちも表情も綻ぶ。
一口食すと口の中にほんのりとした甘さが広がる。
夕鈴の味だ。
優しい甘味が身体に染み込む代わりに、疲れがすうっと消えて行く様だ。

「うん。何時もながらとっても美味しいよ、夕鈴。」
「…喜んで頂けて良かったです。」

久しぶりに見る、彼女の表情。

ほんのりと頬を染めて、それはそれは嬉しそうに微笑むその姿に……、


魅入ってしまった。


「庶民的な物ばかりで申し訳ないんですけど、疲れた時はやっぱ甘い物ですよね!」

「お茶のお代わりもどうぞ。」
夕鈴の白い手が近付く。

ドクンッと心臓が脈打つ音がした。


ーーその手に…。

ーーその頬に触れて…。そしてその……。


そこまで考えた所でハッと我に返り、慌てて卓に並べられた別の菓子に目を向ける。
「あ…、これも頂こうかな。」
「はい!では、お取りしますね。」

ーー今、自分は何を…?

連日の政務疲れの為か、思った以上に思考が鈍くなっている様だ。
静かに眼を瞑り、ふう、と深く息を吐きながら精神を集中させる。
…気を引き締めておかないと、今の自分は何に対しても我慢出来そうにない。
嫌がられる事はしたくないのに。

夕鈴の気配が近付いて来たので其方を見遣ると、何だか辛そうな表情をしている。
「どうしたの、ゆーりん?」
「陛下…。とてもお疲れの様ですね。」
夕鈴はそう言って遠慮がちに僕の顔を覗き込んできた。

「大丈夫ですか?」

心配気に見上げる顔。

真っ直ぐに見つめてくる潤んだ瞳が、
愛らしい柔らかそうな唇が、
こんな近くに。

ーー触れて欲しそうに。

│posted at 20:00:19│ コメント 0件
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