2016.01.15(金)

李順の謀 ーその後のその後ー


「よ!お妃ちゃんっ!」
「うわあっ!!」

ストレス発散も兼ねて掃除婦姿になり、立ち入り禁止区域の掃除をしていた夕鈴。
窓枠を拭こうとした瞬間、ぶら下がる様に姿を現した浩大に驚き声を上げた。

浩大は時々こうして現れては、おやつを貰いに来る。

卓上にある老師が置いて行った煎餅を嬉しそうに勢い良くほう張る。その瞬間、パラパラと煎餅の小さな欠片が落ちるのを夕鈴は見逃さなかった。
「もう、食べこぼさないように気を付けてよね!」
窓枠を丁寧に拭きながらそう注意したものの、老師も浩大も一向に気を付けようとしないので夕鈴も若干諦めている。

「ああ、そういえば、お妃ちゃん。
こないだへーかに女誑しな感じがするって言ったんだって?…随分落ち込んでたヨ?」
浩大はニヤニヤしながら話し始めた。
「まあ、へーかに甘やかされてばかりだから慣れてて何されても胸きゅんとやらになんねーのかナ?」
「!!なっ!慣れるわけないでしょ!!
もう、陛下相手だと何でも只々恥ずかしいんだってば!」
「陛下だと恥ずかしい…ねェ。」
浩大は半笑いになる。

それを『胸きゅん』って言うのではないのかナ?

「じゃあさ、例えば柳家の坊っちゃんとか…。」
「もうその話は終わってるわヨ。」
溜息まじりに夕鈴がツッコミを入れる。そしてその間も掃除のスピードは落ちない。

「ええー、そっかー。じゃあ、余り思い浮かばないタイプを……。
ん、アレだな。周宰相とか!
周のおっさんにお姫様抱っこで救出されるってシュチュエーションは出た?」
「…出てないけど…方淵とは別の怖さがあるわね…。」
遠い目をしながら硝子の掃除に移る。
「あははっ!そーだな、何か怖いなソレっ!!」
浩大はお腹を抱えて笑っている。
「じゃあ次はー、柳大臣!柳のおっさんは!?」
其処でぴたりと夕鈴の手が止まった。

柳大臣の厳しい表情が思い浮かぶ…。

「……手を差し伸べられた時点で自力で逃げ出す自信があるわ。」

「ぶぁっはははぁっ!!」
浩大は椅子から転げ落ちんばかりの笑いっぷりである。
「納得っ!納得だよお妃ちゃんっ!!」
1人で大ウケしたまま次の質問へと移る。
「だったら次はやっぱり氾大臣!氾大臣ならどうなの!?」

「氾大臣はー…。」

氾大臣。その纏っているオーラはやはり大物貴族独特のもので、近寄るのもはばかられる気がする…。
でも、あのにこやかで優しげな表情。
そして何処と無く小犬陛下に似ている雰囲気…。

そんな人にお姫様抱っこで救出されるとなったら……。

「あ、氾大臣ならドキッとするかも!」

そう夕鈴が呟いた瞬間。

浩大は恐ろしい程の殺気に襲われ思わず夕鈴の側にバッと飛び退いた。

「わぁっ!!びっくりしたっ!どうしたの、浩大?」


この殺気…。


姿勢を低く保ちながら、近くの気配を探る。


いつから……陛下は近くにいたのかナ?


浩大の額に冷や汗が滲む。

陛下の行き場のない怒りがこちらに向き始めているのが分かる。
…とばっちりを食う前に早いとこ退散した方が良さそうだ。


「お妃ちゃん。俺、そろそろ見回り行くわ。んじゃっ!」

浩大はそれだけ言うと、ひらりと窓から飛び降りて何処かへ行ってしまった。

「何なのよ、もうー。」

窓から浩大の後姿を見送った後、夕鈴は戸惑いつつも掃除を再開した。


ー翌日ー


「あら、旦那様如何したんですか?
随分お疲れですね〜。」

氾家お抱えの薬師、桃香は主のやつれっぷりを見て思わず声をかけた。

「いやあ、何だか今日の陛下はすこぶる御機嫌斜めでね…。
普段しない様な仕事まで押し付けられて大変だったよ。」
そう言いながら、肩を回しつつ不思議そうに首を傾げる。
「何か誤解される様な事をしたかな?」

「一体今日は何をなさったんですか?」
桃香は笑顔で主専用の特製の御茶を差し出した。

「いや、何も。強いて言えばお妃様の御機嫌を伺った位なんだがねぇ…。」



それからひと月程、氾大臣は陛下の無理難題に応える日々を送った……。

│posted at 20:09:22│ コメント 0件
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