2015.11.11(水)

小犬陛下と饅頭屋 1ー5

《それぞれの始まり》


【王宮・謁見の間】

その部屋にある物は全てが優美でありながらも荘厳な雰囲気を醸し出し、国王の権威の程を見せつけている。

趣向を凝らした赤を基調とした内装。
シンプルながらも最上の材に細く壮麗な細工をふんだんに施した玉座。
ゆったりと部屋を彩る美しい刺繍で飾られた絹の垂れ布。
どれもこれもが洗練されていて、他国の使者も眼を見張る程だという。


そんな場所に突然連れて来られた少女は、酷く狼狽えていた。

「あの。私…。短期の王宮仕事って聞いてきたんですけど…。」
怯えた様子の少女が小声で問う。

眼鏡を掛けた長髪の青年、狼陛下の側近である李順は諭すように答えながら少女の顔を見据えた。
「ええ、ですからこの一か月間、後宮でお務め頂きたいのですよ…。」

「趙 麗華殿。」


一体どういう事なの!?詳しい話は直接という話だったけれど…。

少女はそっと目の前の人物を盗み見た。
部屋の中央の玉座には噂に名高い冷酷非情の狼陛下がゆったりと頬杖をついて座っている。
冷たい雰囲気すら魅力に思える程の美丈夫な青年王。


そして。

「国王陛下の臨時の花嫁として。」

側近の声が響いた。





【下町】

夕方の下町は何かと騒がしい。

夕飯にと買い物をする人々やら仕事から家に帰る途中で知り合いに会って話し込む人々やらで、大通りはこの時間いつも賑わっていた。

そして、大通り近くの饅頭屋がある通りも、同じように多くの人々が行き交っている。

「じゃあ、よろしく頼むよ、夕鈴。几鍔も頼んだよ!」
「おう。」
「何であんたも居るのよ…!」
「いいじゃねえか。別に。」
「良かないわよ。もう。」

饅頭屋の前には、旅支度をした年配の女性と夕鈴、そして几鍔の姿があった。
顔を合わせると直ぐに喧嘩を始める2人を見て、女将は相変わらずだねえ、と笑った。

「女将さん。私頑張っていっぱい売って売って売り倒しますから、安心して治療に専念して来て下さいね!!」
「…分かってるよ!…ま、期待はしてないけど、楽しみにしとくからね!」
女将は豪快に笑いながら夕鈴の肩を叩く。
「そんじゃ、行ってくるよ。」
そう言うと、馬車に乗り込んだ。

夕鈴が1人で作った饅頭に満点合格を出した次の日、女将は怪我の治療と、以前から患っていた持病の養生をする為、隣の都に住む息子夫婦の所でゆっくり休む事を決めたのだ。

「店の売り上げは、夕鈴から預かったらウチで管理して、アンタには週一で届けるからな。」
「済まないね、几鍔。」
「どうせ週一で店の誰かは隣都に行ってんだ。ついでだよ。」
几鍔は照れ隠しなのか項をガシガシと掻きながら答えた。
「それから、あんまり無理しないでおくれよ、夕鈴!
あんたは直ぐに無茶するから。わかったね!」
動き出した馬車の中から女将が夕鈴に声を掛けた。
「はーいっ!女将さん、行ってらっしゃいっ!!」
夕鈴が元気に手を振って見送る。
女将は夕鈴の姿が見えなくなるまで笑顔で手を振り返してくれた。
│posted at 00:47:32│ コメント 0件
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